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宮崎地方裁判所 平成5年(わ)54号 判決

被告人

有限会社 栄幸企画

本店所在地

宮崎市高松町一番二号

(右代表者代表取締役 大津美紀子)

被告人

小川幸二

生年月日

昭和一八年一月六日

本籍

宮崎市松橋一丁目五七番地

住居

同市恒久四三〇一の一 クレールマンション八〇一号

職業

会社員

出席検察官

甲斐孝雄

出席弁護人

松岡茂行

主文

被告人有限会社栄幸企画を罰金四〇〇〇万円に、被告人小川幸二を懲役一年六か月にそれぞれ処する。

被告人小川幸二に対し、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人有限会社栄幸企画(以下「被告人会社」という。)は、肩書地に本店を置き、ゲーム喫茶及びレストランの経営等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成四年三月一八日以前の資本金は六〇〇万円)の有限会社であり、被告人小川幸二(以下、単に「被告人」という。)は、被告人会社の代表取締役(同年七月二三日辞任)としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、ゲーム機収入の売上の大半を除外した上、簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成元年九月一日から同二年八月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億二九八〇万九七七二円(別紙修正損益計算書(一)参照)であったにもかかわらず、同年一〇月三〇日、宮崎市広島一丁目一〇番一号所在の所轄宮崎税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一万六三八四円でこれに対する法人税額が三万三六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額五一〇四万三六〇〇円と右申告税額との差額五一〇一万円(別紙税額計算書(一)参照)を免れた、

第二  同年九月一日から同三年八月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億八四四四万九五四二円(別紙修正損益計算書(二)参照)であったにもかかわらず、同年一〇月三〇日、前記宮崎税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六万二七九六円でこれに対する法人税額が三万一六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額六八三九万四六〇〇円と右申告税額との差額六八三六万三〇〇〇円(別紙税額計算書(二)参照)を免れた

たものである。

(証拠)

以下、括弧内の番号は検察官の請求番号を示す。

判示全事実について

1  被告人及び被告人会社代表者大津美紀子の各公判供述

2  被告人の検察官調書五通

3  被告人に対する質問てん末書一二通

4  大津美紀子(二通)、小川敏朗の各検察官調書

5  大津美紀子(一二通)、小川敏朗(二通、甲70、72)、小川冨士子、小川ノブエ、小川竜次、安井清、山本明美、岩浅清則、井下功一、吉田眞生、阪本紘實、吉田良子、大津尚義、米良俊昭、佐藤純一、立花祥輔、野口佐智子、加藤温郎(二通)、吉田扶紀子、相馬俊文に対する各質問てん末書

6  甲述書九通

(同95ないし98、100ないし102、121、125)

7  証明書二八通

(同120、122ないし124、129、146ないし156、159ないし162、166、171、178ないし181、189、190)

8  調査事項照会回答書二〇通

(同111ないし118、157、164、167、175、183、186、194、196、198、199、201、204)

9  脱税額計算書説明資料(同4)

10  査察官調査書二二通(同6ないし27)

11  査察官報告書六通

(同91、40、142ないし144、225)

12  検査てん末書四三通

(同109、110、119、126ないし128、130ないし139、141、145、158、163、165、168ないし170、172ないし174、176、177、182、184、185、187、188、191、ないし193、195、197、200、202、203、205)

判示冒頭の事実について

1  調査事項照会回答書二通(同48、49)

2  写真撮影てん末書二通

3  登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実について

搜査報告書(同50)

判示第一の事実について

1  搜査報告書(同51、54)

2  脱税額計算書(同2)

判示第二の事実について

1  搜査報告書(同52、53、55)

2  脱税額計算書(同3)

(事実認定の補足説明)

別紙修正損益計算書(一)及び(二)記載の勘定科目の「〈9〉接待交際費」中浜砂幸保に対する支出は、被告人会社の得意先、仕入れ先その他会社事業に関係のある者に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類似する行為のための支出(租税臨時措置法六二条三項参照)ではなく、暴力団関係者である同人に対し、小遣い銭として支出されたものであり、これを被告人会社の業務遂行上必要な損費として取り扱うのは相当ではないから、これを損費から削除することとする。

また、同修正損益計算書(二)記載の勘定科目の「〈13〉租税公課」の中の大津美紀子名義で納付した自動車税については、右自動車が被告人会社の所有に属することを認めるに足りる証拠は存せず、これを租税公課に計上することは失当であるから、右同様に、これを損費から削除することとする。

そして、以上の各勘定科目の修正により生ずる実際所得額、実際法人税額の変動については、検察官の訴因変更の請求がなされていないため、別途訴因調整のための勘定科目を設けて処理することとする。

(法令の適用)

一  罰条

1  被告人会社

いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人

いずれも法人税法一五九条一、二項

二  刑種の選択

被告人

いずれも懲役刑を選択

三  併合罪加重

1  被告人会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)

四  執行猶予

被告人

刑法二五条一項

(量刑の理由)

一  不利な事情

1  被告人会社及び被告人について

本件は、二事業年度に渡って法人税を逋脱したというものであるが、逋脱した金額の合計が約一億二〇〇〇万円に上っているばかりか、逋脱率も九九・九パーセントを越えるなど、その結果は重大である。

また、逋脱の手段として、常態的に、伝票類の大半を破棄したり、多数の仮名預金口座等を開設して売上から除外した金員を振込送金するなどして実際所得の把握を困難にした上、過少に所得を記載した虚偽帳簿を作成させるなどして法人税の申告前に実際所得を秘匿したばかりか、犯行が発覚しないように、損費を過少に計上して黒字を捻出し、実際法人税額に比し、僅少の法人税を納付するという巧妙な方法が用いられているなど、計画的で、犯行態様も悪質である。

その上、本件逋脱所得の大半は、違法なゲーム機賭博を営業的に行って獲得したものであり、所得獲得の手段に斟酌すべき余地が存しないばかりか、本件発覚後においても、被告人会社は未だ右ゲーム機賭博による利益獲得を全面的に中止するには至っていないことが窺われるなど、犯行後の行動も芳しくないものである。

2  被告人について

被告人は、被告人会社の企業目的外のために逋脱所得を使用するため、本件を敢行したものであり、その動機に汲むべき事情は存しない。

また、被告人は、これまで、臟物故売、営利目的による覚せい剤の譲渡、輸入等の違法行為による利得獲得を反復累行してきたものであり、本件も、違法に利益を得ようとしてなされたものであるという意味において、右違法行為と同質の犯行と考えられる。

3  以上の諸事情を総合考慮すると、被告人会社及び被告人の刑事責任には、軽視できないものかあるというべきである。

二  有利な事情

他方、被告人会社及び被告人については、被告人会社が、本件発覚後、逋脱した法人税、法人臨時特別税、重加算税、延滞税、法人市民税一億九八〇〇万円余を納付し、残り四四〇〇万円余を納付予定であること、被告人会社は将来的にはゲーム機営業を止め、レストラン営業に経営方針を転換しようとしていることなどの有利な事情が認められ、また、被告人については、以上に加え、税務調査後、被告人が被告人会社の代表取締役を辞任し、反省の意を表明していること、被告人の健康状態が陳旧性心筋梗塞等で不良であること、被告人には同種の前科・前歴を存しないこと、被告人の妻が被告人の今後の監督を誓っていることなどの有利な諸事情が認められるところである。

三  そこで、右の諸事情を総合考慮し、主文の刑を定め、被告人については、今回に限り、刑の執行を猶予することとした。

(裁判長裁判官 榎本巧 裁判官 黒野功久 裁判官 吉井広幸)

(別紙) 修正損益計算書(一)

〈省略〉

(別紙) 税額計算書(一)

〈省略〉

(別紙) 修正損益計算書(二)

〈省略〉

(別紙) 税額計算書(二)

〈省略〉

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